フィクションとノンフィクションの狭間 『円朝の女』

松井今朝子著『円朝の女』(文藝春秋)
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 ここ数年の落語ブームの影響もあるのか、三遊亭円朝関連の著作が相次いで刊行されているようだ。森まゆみの『円朝ざんまい』、『三遊亭円朝探偵小説選』 (論創ミステリ叢書)、一柳廣孝、近藤瑞木の『幕末明治百物語』、石井明の『円朝 牡丹燈籠―怪談噺の深淵をさぐる』 などの他、落語関係の書籍も含めると枚挙に暇がない。

 大学、大学院と円朝を研究した私にとっては嬉しいことだが、時代を先取りしすぎた(?)のかもしれないと思うと悔しさもないではない。こつこつと研究を続けていれば私も表舞台に出られたのかも、などと思いつつ、仕方がないのでタイ映画のDVDをこつこつと見続け、タイ王国からタイ映画を紹介した功績を認められ、タイに招待してもらえる日を待とう。

 伝記としては永井啓夫の『三遊亭圓朝』(青蛙房)にとどめを刺し、円朝を主人公にした小説といえば、小島政二郎の『円朝』と正岡容の『小説圓朝』は現在でも河出文庫で入手できる。さすがに長谷川幸延の『寄席行灯』は古本屋でも見つけることは難しいかもしれないが、虚実入り交じっているとはいえ、これら様々な作品を通して三遊亭円朝の生涯を追うことはできた。しかし、考証が行き届いていても、これらの小説はいま読むとピンとこないことも確かなのだ。その点で、この『円朝の女』は、これらの「古典」というべき作品と比べても全く引けをとることなく、十分に現代に通用するエンターテイメントになっている。厳密には円朝が主人公ではないのだが、2007年の辻原登『円朝芝居噺 夫婦幽霊』と並び、江戸から明治へと大きく変わっていく日本が描かれた、文句なく面白い時代小説といえる。


円朝の女
文藝春秋
松井 今朝子

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