再び小説家を目指そうかと 『二流小説家』

ハヤカワ・ポケット・ミステリ『二流小説家』 
  デイヴィッド・ゴードン 青木千鶴訳 (早川書房) ☆
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 主人公のハリーは、いくつものペンネームを使い分けてミステリやSF、ポルノ小説などを執筆し、どうにか食いつないでいる冴えない中年作家。書名の通りの「二流小説家」である。そんな彼のもとに死刑執行を待つ連続猟奇殺人鬼ダリアン・クレイから告白本の執筆を依頼する手紙が届く。気が進まないながらも彼に言われるがままに取材を始めたハリーは、新たな猟奇殺人に巻き込まれ、彼自身も命を狙われるようになる。果たして刑務所にいるダリアンは真犯人ではないのか、それとも獄中から何らかの方法で新たな殺人を犯しているのか。主人公ハリーの書いたミステリやSFなどの作品が断片的に挿入されていたり、ハリーの文学観や小説作法なども書かれていたりするなど、なかなか凝った構成。ミステリ・ファンで、しかも小説家を夢見ていた私には非常に面白かった。
 新聞や雑誌の書評でもかなり好意的に取り上げられており、いまさらの感もあるが、ミステリ・ファンなら絶対に面白いと思うはず。作者のデイヴィッド・ゴードンは本作がデビュー作だというが、マスコミ関係のキャリアを積んでいるだけあって構成力はさすが。長編ミステリの場合、前半に主要なエピソードが集中し、後半になるとスピーディになるのと引き替えに急激に濃度が下がることが多々ある。ところが、本作の場合は、新たな連続殺人が起こるのが序盤ではなく、中盤に入ってからで、最後の最後まで濃度が下がらない。ハリーを取り巻く人々も個性的で、ハリーのビジネス・パートナーでもあり、家庭教師としてしての教え子でもあるクレア、双子の姉をダリアンに殺されたストリッパーのダニエラ、ゲイの友人のモーリスなど、それぞれがそれぞれの立場から「二流小説家」のハリーを支える。
 誤読してしまったのは事件の鍵を握るダリアンの弁護人、キャロル・フロスキーを途中まで男性だと思い込んでいたこと。名前は明らかに女性なのだが、最初の登場は口汚く電話の相手やハリーを罵る場面であり、「彼女」という表記が一切ないので勘違いしたのだ。事件の謎が解き明かされていく段階で気づいたのだが、この失態は大きい。もう一点気になったのはダリアンが殺したのは3人なのか、4人なのかという点。これが最後まではっきりしないのは無理があるような気がする。
 タフガイが活躍するハードボイルドもいいが、個性的な友人たちに支えられて精一杯自分の務めを果たそうとするハリーには十分感情移入できた。連続殺人事件の謎を解くことは無理だとしても、自分ももう一度小説を書いてみようか、と思わせてくれた作品である(ただし、挑戦しようと思っているのはハリーがトム・スタンクス名義で書いているジャンルだが)。


二流小説家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
早川書房
デイヴィッド・ゴードン

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